LEGALIE道頓堀東
- Year
- 2022
- Place
- 大阪府大阪市
- Texture
- PC
HERE WE INTRODUCE THE PROJECTS WE HAVE DONE.
ALL PROJECTS ARE MADE OF IDEAS AND THOUGHTS THAT
EMBODY OUR PHILOSOPHY “IMAGINEERING”.
2000年代以降、パウダースノーを求めてオーストラリアをはじめとする海外からの移住者・インバウンドに脚光を浴びているニセコ(倶知安町)にあるコンドミニアムです。ニセコはなんと言っても羊蹄山(蝦夷富士とも呼ばれる)の眺望が素晴らしいので、周辺の建物は、採光よりもなによりも羊蹄山ビューの確保がマストです。今回のプロジェクトも、羊蹄山に正対した配置としています。 もはや世界的なスキーリゾートと言っても過言ではないニセコ。当然ながら冬に多くの人が訪れるわけですが、施設が1シーズンでも早く運用を始められると、事業的にはプラスに働きます。工場で打設するプレキャストコンクリートを採用し、現場打ちコンクリートよりも工期が数ヶ月短くて済めば、1シーズン早くオープンできる可能性は十分にあるとAIGは考えました。 また、開発ラッシュとなっているニセコ界隈ですが、元は人口1.5万人程度の小さな町です。建設時には小樽や札幌の建設業者や職人が毎日車で1時間以上かけて通っているなんてことも多々あります。生コン工場こそニセコ近郊にありますが、需要過多で価格が高騰しているので、このニセコの地で、材料費も人工(にんく)もかかる現場打ちコンクリートを多用することが果たして適切なのかという疑問もありプレキャストコンクリートの可能性を検討し始めました。 メリット・デメリットを建築家の大田さん、建物の企画者のキースさんらと十分話し合った上で今回はプレキャストプレストレスト工法(PCa+PC)を採用しました。
羊蹄山を望む傾斜地という敷地特性をめいっぱい享受するため、羊蹄ビュー方向は薄肉ラーメンの架構としました。5〜7層×3スパンの薄肉フレームを4列並べたシンプルな構成です。直交方向の壁柱と壁柱をつなぐ梁は一般に境界梁と呼ばれ、せん断力が卓越する部材となるので、PRCよりもコンパクトでコストパフォーマンスの高い鉄骨梁を採用しています。 さて、プレストレストコンクリート造の設計クライテリアは、コンクリートのひび割れを発生させないフルプレストレッシング(Ⅰ種PC)からRC同様に鉄筋の引張力も耐力に加算するPRC(Ⅲ種PC)まで、松・竹・梅あります。躯体品質が1番高いのはⅠ種PCですが、コストは嵩みます。その点、比較的リーズナブルなⅢ種PCは地震時に躯体がひび割れたとしても、プレストレスの効果によりひび割れがおさまる(圧着される)ので、RCにはないメリットが得られます。 今回のプロジェクトでは、そのⅢ種PCを採用していますが、PCa部材同士をプレストレスの圧着効果のみで接合しているジョイント部分は鉄筋の効果が得られないため、自ずとフルプレストレッシングとして設計する必要があります。問題は、そのジョイントをどこに設けるかということです。 構造的には、モーメントが相対的に小さい箇所(例えばスパン中央の反曲点)にジョイントを設けることがベストです。なので当初は柱梁仕口部分を一体化した十字フレームによる架構を計画していました。ただ、この案を見た富士PSの木村さんはどうも難しい顔をしています。運搬効率が悪いというのがその理由でした。構造的には良くても施工的なコストが嵩めばトータルで良い案とは言えません。木村さんと議論した結果、シンプルな平板の壁柱と梁部材による梁勝ち架構を実施案としました。PCa部材は全て平板なので、運搬効率は言うことなしです。梁勝ち架構の良いところは、積み木のように壁柱を2本立ててその上に梁を載せれば、サポートがなくても建方ができるという点です。圧着面の少ない梁は材端でもPRC部材として鉄筋も耐力に加算できます。逆に在端が圧着部となる柱はどうかというと、プレストレスに加えて長期軸力による圧縮力の貯金があるので、梁の圧着面よりも曲げ耐力・せん断耐力としては有利になります。ただ最下部1階柱脚の曲げは、さすがに圧着では対処しきれないので、PRCとして鉄筋も考慮するために現場打ちで1mほど立ち上げ、その上にPCa柱を載せるおさまりとしています。 壁柱と鉄骨梁の接合は、壁柱の両側に鉄骨梁がくるので、両側をネジ切りしたPC鋼棒を貫通させ、両側の鉄骨梁のベースプレートを通して両側からナットで挟み込む収まりとしています。壁厚350×梁せい380の狭小な仕口部の中に4本のPC鋼棒を貫通させ、梁主筋も定着するおさまりはなかなか苦戦しました。実施設計でもおさまりは検討していましたが、着工してから富士PSの吉村さんと何往復も詳細図のやりとりを繰り返したのも、今となってはいい思い出です。 PCa+PC工法の面白さは、構造計画・架構計画がすなわち施工計画(製作・運搬・組立)であるということです。 意匠と構造と設備、計画と設計と施工、いずれも相互に連関しているはずですが、専門分業が進んだ今日においては、分離して考えられがちです。RC造の場合、現場で配筋が収まらないと鉄筋屋さんともめる程度で、設計時にどう施工するかあまり考えなくてもすみます。しかしPCa+PC造の場合は、設計の段階から施工する人の意見が不可欠です。構造設計者の思い通りにいかないことも多々あります。逆に、ディスカッションから構造設計者だけでは考えもつかない素晴らしいアイデアが生まれる可能性もあります。それこそがAIGが大事にしているコラボレーションであり、最も楽しんでいる設計活動のコアの部分だと思うのです(藤田 啓)