由利本荘つつじ堂
- Year
- 2017
- Place
- 秋田県由利本荘市
- Texture
- Timber
HERE WE INTRODUCE THE PROJECTS WE HAVE DONE.
ALL PROJECTS ARE MADE OF IDEAS AND THOUGHTS THAT
EMBODY OUR PHILOSOPHY “IMAGINEERING”.
北海道の公立2年制学校(専門学院)で、森林資源が豊かな北海道の林業人材を育成する校舎です。 旭川市郊外の道立研究機関、林産試験場と同じ敷地内に建設されました。 林産試験場は、道産木材の更なる利用拡大のため集成材やCLTのみならずカラマツ心持ち柱の乾燥技術を実用化したコアドライの研究開発を行っています。単なる地場木材活用にとどまらず、より高度な実例展示、さらには将来の林業人材に北海道産木材のすばらしさを伝えるような建物となることを目指してコンペで勝ち取り、計画がスタートしました。 建築家の遠藤謙一良さんと安藤との会話の中で、入ってすぐにこの建物のコンセプトを感じられる、アトリウムのあるべきイメージとして出てきたのが “森の中の木漏れ日”つまり、自然の解像度の高さを具現化したような光と陰の複雑なレイヤーのある体験でした。ホール吹き抜けの南面にハイサイドライトを設け、勾配屋根とその架構に四季ごとに高度が変化する太陽の光が当たることで木の架構に光が射し込み、そこに現れる陰影を楽しめる構造が、この建物の大きなコンセプトです。
<全体構造計画・設計> 木造部分は東西約30m南北約20mの平面で、1階も2階も北側のホールから各所要室にアプローチする構成となっています。南北方向(短手)は、東西外壁と界壁部に耐震要素を十分配置できるため、CLT造としました。東西方向(長手)は、両側外壁ともオープンなプランに合わせて1間の界壁から耐力の高い耐震要素を最小限の配置とするために、許容応力度設計によるブレースを設けた木質軸組工法としました。 CLTは道産トドマツ・カラマツを道内のCLT工場(オホーツクウッドピア)で加工したものを使用しています。 木質軸組材料についても、前述の道産カラマツ製材(コアドライ)・道産カラマツ集成材を採用しました。 個人的にもAIGとしても1000m2を超える中規模木造建築の設計はほぼ初めてでしたが、多雪地域(130cm)で鉛直部材が少ないため軸力負担が大きく、階高3.8mで許容軸力の低減が大きいため、柱や10mを超えるスパンの木軸トラスの軸力の対処にはなかなか苦戦しました。 SteelやRCでは影響の小さい、接合部の剛性評価が中大規模木質構造の解析においては重要であるということも今回の大きな学びとなりました。特にCLT壁の曲げ剛性は、母材よりも引張側金物と圧縮側めり込みの影響が大きいため、材端ばねによる評価がCLT設計施工マニュアル等で推奨されています。この建物では、1.2mのCLT壁を何十枚も並べていますが、各壁の四隅に何百もの材端ばねを解析で手入力し、設計調整のたびに再入力するのはスマートではありません。今回は、壁長さ1.2mユニットを並べるという構成だったので、厚さ150㎜と210㎜の2種類について材端ばねを入力した2層1ユニットの詳細解析(Push-Over)により、1ユニットの荷重-変位関係(非線形)を調べることとしました。全体解析モデルには、1ユニット解析で得られた結果と同等の同等な剛性(割線剛性)を各CLT壁部材に入力し、詳細解析と全体解析で変形がほぼ一致するよう、剛性の調整を行いました。多少の簡略化や仮定を加えていますが、全体モデルにおびただしい数の材端ばねを入力するよりは、スマートでシンプルな解き方ができたのではないかと考えております。 <傾斜張弦梁> 前述のハイサイドライトの光を下に落とす架構は、立体的な架構がいいだろうということで、上弦材がフラット、下弦材が800せい程度の円弧状の張弦梁架構を2パターン考案して、遠藤さんに提示しました。 A案は上限材を斜行させ下弦材を平行配置したもの、B案は上限材が平行で下弦材を斜行させたもの(実施案)。 私は正直、A案のほうがいいなと思っていました。円弧状の下弦材を平面的にも斜行させたら、3次元的な取り合いが複雑で、おさまりを整理しきれないのでなはいかと思ったからです。ですが、遠藤さんが選んだのは難易度の高いB案でした。今振り返れば断然B案でよかったと思っています。下弦材を斜行させると、見た目の複雑さ、華やかさが加わるだけでなく、構造的にも不静定次数が上がり、引張材である下弦材を木質材料でやることへの多少の違和感も軽減されます。さらにSteelの長手方向のつなぎ材を設けることで、さらにFail-Safeな架構としています。 3次元的な取り合いを少しでも単純化するために、次のような方法を採用しました。 ①長さ800㎜の束材は、鉄骨で断面を最小化する。 ②金物を目立たなくするため、下弦材の端部はスリットプレートとドリフトピンによるおさまりとする。 ③スリットプレート交差部まで束材を貫通させ、四方からくるスリットプレートを束に溶接する。 ④束材はスリットプレートの取り付き角度に対応できる丸鋼とする。 ⑤長手方向つなぎ材は下弦材よりも上側とすることで、他部材との干渉を避ける。 この張弦梁にラチス張弦梁という名前をつけ、現場でその作り方などについて何度も議論を重ねました。特に、遠藤建築アトリエの今谷さんや厚浜木材の慶伊さんとは密に相談しあっていたと記憶しています。また、直接やりとりをしていたわけではありませんが、製作金物を担当した道央建鉄さんには、3Dでのスタディをもとに束とスリットプレートのおさまりについてよりよいジオメトリの提案をしてもらい、ラチス張弦梁がかなりブラッシュアップされたと感じました。 <CLT張弦版> 校舎内で一番広い実習室10.8×18.5mが1階にあり、そこをどう作るかがもう一つの大きなテーマとなりました。実習室の上部には2階のホールと教室が乗っているため、積載荷重が大きく、振動の抑制も気になるところです。建築家の遠藤さんたちや施主からは、木造主体の構造なので、必要に応じて間柱を設けてもよいということでしたが、AIGとしては何としても無柱空間でやってやろうと考えました。まずは両側のCLT壁にCLT床を乗せる形をイメージしましたが、CLT版の長手最大サイズが6mなので1枚ではスパンを飛ばせません。プレキャストプレストレスト工法(PCa+PC)でバラバラのピースが圧着されると一体化する考え方を応用して、上端面は1.2×6mのCLT版を9枚×3列並べて構成し、下弦材はそれを補うSteelの線材を2方向材として構成しました。下弦材には張力(プレストレス)を導入して応力と変形を抑制し、圧着による上端面材の一体化も図れると考えました。ここでは束材を120角の製材(コアドライ)とし、下弦材と束材の関係性(Steelと木)を逆転させています。技術的には問題ないところまで設計を固めていたのですが、CLT告示の第四の三号「床パネルは、平行する2つの壁および梁で支持する。」の解釈のために便宜的に設けていた2本のH鋼梁が、実施設計の紆余曲折を経て、本格的なビルトボックス梁に代わってしまったのは残念でなりません。下弦材のフラットバーは端部で2本のM24に乗り換え、ナットの回転管理で張力導入を行いましたが表に見えるシャープなSteelの印象とは対照的に、木部材のめり込み耐力に見合った支圧版は天井裏で重々しく頑張っているなあと、上棟時に現場でしみじみ見入ってしまいました。 実施設計の終盤、確認申請・適合性判定は当時のAIG一同全員で追加検討書・図面の対応し、何度も北海道に書類を持参して説明し、直しては持参しを繰り返して、やっとの思いで着工にこぎ着けたと思っていたら、今度はコロナ禍となってしまいました。緊急事態宣言機関の合間を縫うように打ち合わせや検査で現場に足を運んだものの、もっと現場で関係者の皆さんと議論してプロジェクトを進めたかったなと後悔が残ります。それでもいい建築となっているのは、ひとえに私の分まで背負って対処してくれた遠藤建築アトリエの今谷さんのおかげだと確信しております(藤田 啓)