LEGALIE道頓堀東
- Year
- 2022
- Place
- 大阪府大阪市
- Texture
- PC
HERE WE INTRODUCE THE PROJECTS WE HAVE DONE.
ALL PROJECTS ARE MADE OF IDEAS AND THOUGHTS THAT
EMBODY OUR PHILOSOPHY “IMAGINEERING”.
鳥栖市にある浄土真宗のお寺、本照寺で老朽化した納骨堂の建て替えを行いました。境内は5本線の筋塀で囲まれ、 入口の山門をくぐると正面奥に本堂、左側に鐘楼が配置されており、いずれも伝統的な木造寺社建築です。 今回建て替えた納骨堂もその一角にあり、お寺にふさわしい落ち着きと気品を備えていますが、躯体にコンクリート、仕上げにアルミパネルを採用するなど、現代的な材料を駆使して温故知新な境内の雰囲気も感じることができます。平屋の拝殿棟が手前にあり、その奥に2階建ての納骨堂という構成です。メインとなる1、2階の納骨室は12×12m平面の無柱空間で、中央通路の両側に納骨ブースが整然と並ぶ厳かな雰囲気を醸し出しています。 この建物の構造計画/設計のテーマは、①非日常的な内部空間の演出、②魅力的な立体テーパーリブの考案、③エスプリの効いたロングスパンの解き方、④シンプルで合理的なアンボンドPCの活用法などを意識しながら設計を行いました。
壁式RC2階建ての建物で、オーソドックスな箱として設計することも可能ですが、AIGでは解き方を工夫することで特徴的な内部空間を実現しています。 構造計画/設計のテーマに即して、AIGのアイデアを挙げると、 ①納骨堂は故人と向き合うための特別な場所です。その特別感≒非日常を感じる空間演出が必要だということは、当初から松山建築設計室の人たちとも共有していた一番のテーマでした。納骨室の機能として、水回り(=給排水設備)は必要ないので、照明と空調を工夫すれば天井面の構造体を表出することは比較的容易に実現できます。平滑ではなく力強い構造体を下からの照明で照らし、そのまま魅せることで特別な場所としての空間演出に、AIGとしても一役買えたと自負しております。 ②建物の機能として、床スラブの上面は水平・フラットである必要がありますが、下面は必ずしもフラットである必要はありません。コンクリートは比較的自由な造形が可能とはいえ、コストパフォーマンスの高いデザインを考えるならば、型枠の歩留まり、加工手間を考えると、多少の制約を設けた方が良いといえます。今回の天井面の構造デザインに当たっては、(1)曲面ではなく平面の型枠で製作可能な形状、(2)納骨ブースの配置間隔と同じ1.74mピッチの構造の繰り返しで構成すること、(3)構造的な合理性のある形状とすることの3点を念頭に置き、折版的な立体テーパーリブにたどり着きました。両端部で幅・せいが最大となる逆三角断面がスパン中央で集束する、三角錐状のテーパー断面としています。両側からのテーパーで切り取られた中央のひし形の部分は、フラットとしテーパー断面を際立たせています。躯体のボリューム感・力強さと同時に、折り紙のような折版造形の軽やかさも感じられる、アンビバレントな構造体が実現できました。 ③ところでこの12mスパンの構造体、見てわかる通り両端部で断面が最大となり中央部で断面が最小となる構成となっています。構造力学で習ったとおりに梁やフレームの曲げモーメントを求めると、確かに梁端部でモーメントが最大になるものの、中央で最小になるわけではなく、材端の50%程度かそれ以上の曲げモーメントが発生します。この建物では、スパン中央部は剛性も耐力も極小となることから中央ヒンジと見なし、両側から伸びてきた片持ち梁が真ん中でたまたま出会ったような応力図に対して、常時荷重に対する設計を行っています。地震時は外周部の壁が水平力を負担していますから、中央部の架構は常時荷重が卓越します。鉛直荷重に抵抗する梁としては、構造的にも合理的なテーパー形状と言えます。 とても合理的なリブとは対照的に、それを支える壁はかなり「ちからわざ」的な解き方をしています。端部でスラブ厚も含めたせいが650mmのリブを受ける壁が200mmしかないのは心もとないので、外壁側に立体テーパーリブの端部固定度に見合う突起(250×300)を2つ設けて、6-D22の配筋をしています。外部仕上げとなるアルミパネルとRC躯体との間には十分なクリアランスがあるので、外観を妨げることなくリブを設けています。 ④立体テーパーリブは、材の中央から端部まで常に上端引張の曲げ応力分布となりますが、それをキャンセルするようにアンボンドPCを上端側にストレート配線しています。常時応力が卓越するので、グラウト不要なアンボンドPC鋼より線を採用しました。一般的なロングスパンPC梁は、材端で上端側・中央部で下端側となるようなライズを設けて端部の上端引張と中央部の下端引張をキャンセルする配線がセオリーだと思いますが、今回の立体テーパーリブはストレート配線で、PCの扱いがより簡便な方法を示せたと考えております。 設計者がイメージする応力分布と架構システムは表裏の関係にあります。架構が応力に従い、また応力が架構に従う。この建物では、中央ヒンジを指向した応力・架構を考案したわけですが、この立体テーパーリブの形状を発案した示した安藤は、私がまとめた実施計算書を見て「片持ちで解いてるの?」と驚いていました。じゃあ実施設計まで安藤が担当していたらどのように解いていたか、聞きたいけど聞きたくないような気もします(藤田 啓)