Loading
0

AIG

Projects

HERE WE INTRODUCE THE PROJECTS WE HAVE DONE.
ALL PROJECTS ARE MADE OF IDEAS AND THOUGHTS THAT
EMBODY OUR PHILOSOPHY “IMAGINEERING”.

由利本荘つつじ堂

方杖ラーメンとシングルレイヤートラスによるお堂的近代建築
  • TIMBER TIMBER

over view & Goal

この建物は、なかなか思い出深いProjectでした。

まず、AIG(旧安藤耕作構造計画事務所)が発足した当初は、前々職の北海道時代からのつながりで、東北地方で色んな建物を設計していました。その中で、秋田のはりま建設という建設会社の茂木さんという常務と特に仲が良くて、僕は「東北のお父さん」と呼んでいました。その茂木さんから「由利本荘で相談を受けている建物が東京の建築家なので、安藤さんに構造設計者として参画して欲しい」という打診があり、話を聞いてみると、所在地がAIGと同じ千駄ヶ谷ということで、初めて会った時から近所で同世代ということもあり、勝手な親近感で、upsettersの岡部さんとの協働が始まりました。

今回のクライアントは、秋田でセレクトショップを営んでいる高橋さんという会ってみると非常におもしろい方で、その高橋さんのセレクトショップの新築でした。しかも、高橋さんは高野山に帰依されている方で(その時点で安藤としては興味津々)、建物は寺社のような反り屋根が希望で、立面も寺社のような丹精なんだけれど、モダンな建物というアンビバレンスな要望でした。安藤が第一印象で感じたのは、伝統的な寺社のようなレイヤー感で構造を構築するような予算はなさそうなので、構造はあくまで近代的に考えて、シングルレイヤーのラーメン系の架構として、積極的に非開口部にはブレーシング、方杖を配した構造計画として、屋根は入母屋として、風格のある勾配の大きい屋根には、シングルレイヤーのトラスを計画し、12mのスパンを構築することを考えました。建物全体として、佇まいは伝統建築的なんだけれど、構築方法は近代的。というようなクライアントの高橋さんと建築家の岡部さんと安藤で話しているイメージをそのままカタチにすることをGoalとしました。

この建物の構造計画のTIPを挙げると、

1)シングルレイヤー架構でラーメン的効果を得るための方杖

2)軸力系架構をスリットPLとドリフトピンで余すことなく部材耐力を使い切る

3)急勾配を活かしたシングルレイヤートラス

4)力桁方式のSteel螺旋階段

Idea

1)開放的な空間を作ろうとすると、構造設計者が最初に考えるのは、梁柱による枠組み効果で水平力に対抗するラーメン構造となりますが、今回はGIRを採用するような柱サイズを想定していない小径材で建物を作ることを全員がイメージしていたため、選択肢としては、柱の可撓長さをストラッド材で短くしてラーメン的効果を得ることを基本的なコンセプトとしました。それは岡部さんが想像している水平窓の立面とも相性がいいと考えて、方杖ラーメンを採用しました。

 

2)次に取り組んだのが、前述の軸力系部材となるストラッド材や短手の数少ないブレースの耐力の最大化です。そのために採用したのが、SteelスリットPLとドリフトピンによる支圧接合でした。AIJの木質構造指針から考え方を吸収して、カタチにしてみると、なかなかDetail Lessな感じがすごく気に入りました。今ではAIGではデフォルトのDetailですが、この建物での採用が最初期でした。

この辺りから、木質架構の性能はDetailで決まることや、樹種による強度の差異、個体差などの今日のAIGで向き合っている木質構造の奥深い沼へのスタートが始まったと思っています。

 

3)高橋さんの当初からイメージされていた風格のある屋根の平面は12m×20mに対して、勾配が25%なので、相当急勾配なので、外形を目一杯活かしたトラスを構築すれば、12mのスパンは難なく構築できると最初期から考えていたので、入母屋屋根の両サイドの集合点に柱割が来るような勾配に調整をして、2Fは外殻以外を無柱空間としました。しかもこれをシングルレイヤーで計画したので、各トラスの集合点を全てSteelスリットPLにドリフトピンで計画しました。改めて設計図を眺めてみると、理には叶っていますが、よくやったな。と思います。2022年現在の安藤の価値基準で言うと、おそらくカチマケを付けずに、ダブルもしくはトリプルレイヤーでトラスを構築したと思いますが、施工当時の写真を見ると、これはこれで清々しい大架構だな。とも思っています。結果的には、2Fは無柱空間に出来ている訳で、必要条件は満足している訳ですが、構造設計者としてはそれをどのように作るか。という点においてもテーマが存在するため、そういう意味では非常に重要な建物だと思っています。

 

4)木質構造の話題が続きましたが、階段は紅一点、Steelによる折れ曲がり螺旋状階段としています。しかもセレクトショップのメインの階段なので、なかなかゆったりした螺旋状階段になるので、バネ状態のささら架構となる事から、曲げ剛性とねじれ剛性を得られるように、2本並行力桁として、力桁を開断面のH鋼とする二律背反な階段としました。結果的には、当初狙っていた通り、ねじれ架構を開断面で実行したことが思いの外、おもしろく感じられる階段となりました。

 

この建物を考えていた当時(2015年)は、正直言うとあまり木質構造が好きではなかったです。2022年現在、自分達が設計した建物の中で、木質構造の割合がこんなに大きくなるとは、想像もしていなかったですが、今考えてみると、PC、Steel、RCと色々とやり尽くしていて、建築構造の自分なりのあり方の中で、問題定義やテーマを設定できるようになっていて、他の分野(この場合木質構造)に触手を伸ばす必要性を感じていなかった自分が居たのだと思っています。それは単純に食わず嫌いだったようにも思っています。しかし、この建物の設計に際して、木質構造と徹底的に向き合い、木質構造の可能性に気付けたことは、AIGの設計フィールドにおいて大きな出来事だったと思っています。

この建物が完成するためには、木質構造のエンジニアで、今も一緒に仕事をしているジャパン建材の方波見さんの存在が大きいと思っています。不勉強な安藤が考えるDetailへの想いを一身に受けて止めてくれて、おびただしい量の施工図とスケッチのやり取りで、完成出来たと思っています。もう1つ思い出深い話として、地鎮祭(起工式)と上棟式を高野山から高橋さんが帰依している真言宗の僧侶の方が来られて、仏式の上棟式で、関係者全員で般若心教を唱えたのですが、小学生の頃、毎朝お母さんに般若心教を読まされていたため、暗唱できる自分に驚きました。そういう意味でも思い出深いProjectです(安藤 耕作)

data

所在地
秋田県由利本荘市
用途
テナント
プロジェクト期間(開始)
2016.05
プロジェクト期間(竣工)
2017.05
規模
地上2階

Credit

クライアント
株式会社理趣
建築設計
upsetters architects
立役者(外部)
ジャパン建材 方波見さん
立役者(AIG)
安藤 耕作
写真家
Yusuke Wakabayashi