LEGALIE道頓堀東
- Year
- 2022
- Place
- 大阪府大阪市
- Texture
- PC
HERE WE INTRODUCE THE PROJECTS WE HAVE DONE.
ALL PROJECTS ARE MADE OF IDEAS AND THOUGHTS THAT
EMBODY OUR PHILOSOPHY “IMAGINEERING”.
ANDO Imagineering Group/AIGが社を構える想いの詰まった建物です。クライアントは、同じ方向を見ている兄弟分であるリアルパートナーズで、建築家は櫻井建人さんです。土地の手当がついた頃に、リアルパートナーズ山口さんと計画地を夜な夜な見に行った時に感じたのが、番町エリアの独特の雰囲気と北側のお寺さんへの畏敬と計画地の向かいが僕の尊敬する画家の藤田嗣治の旧居があったことを知り、これは安藤の設計人生の中でもエポックとなるような建物を作ることになりそうなだな。とワクワクしていました。 計画の最初期から山口さんとは、僕たちの虎の子ワザであるPC(Prestressed Concrete)を面白く使って“ならでは“な空間を作ろうと話していました。 櫻井さんとは、この建物が最初の協働で、リアルパートナーズ石原さんから紹介を受けて、いつか一緒にお仕事したいね。と言い合っていました。計画案は、櫻井さんの今までの豊富な経験と遊び心から来るシャープな造形センスを遺憾なく発揮したもので、問題は構造計画をどうするかでした。2回目のMTGの時に、櫻井さんがプランの説明をしている横で描いたスケッチがそのまま形となっていますが、その時のアイデアは、プラン上の明快なワンサイドコアを構造的にも対震コアとすること、そうなると塔状比が9.9となるので、地震時の転倒を抑えるために、アウトリガー的に、開口側にテーパリング梁を延ばして、地震時の応力を可視化する。という今考えてものなかなかユニークなアイデアでした。 計画当時は、まさかAIGがこの場所で仕事をすることになるとは思ってもいなかったですが、2021年5月に移転稼働して、現在1年が過ぎようとしています。自分達が設計した空間というのは、本当におもしろい。私たちの仕事はクライアント、設計者、施工者が一体となって、一所懸命にその時持ち合わせているアイディアや能力、人との繋がりや想いを最大限駆使して、作り上げる訳ですが、その作り上げた空間で活動をしてみると、これに付加されて時間軸という概念が実は重要な要素であることに気が付きます。もちろんどんな建物を設計する時でも先ほどの4要素に時間軸という概念を意識していますが、日々その結晶である空間内で活動すると、自分達が当時100%の想いで設計したものが本当に100%だったのか。と時間軸を持って自問自答したくなります。もちろん、自分達の仕事は100%だと自信を持って言えますが、時間軸を考慮しても100%と言える建物を作らないといけないな。と改めて感じています。
ESCALIER麹町は、現場打ち鉄筋コンクリート(RC)にプレストレス(PS)を導入するというPRCという構法で作られていますが、PRCはRCに比べて高価となりますが、PCa+PC(プレキャストプレストレストコンクリート)に比べれば、現場作業という意味ではRCに近いため、ゼネコンとの親和性がいいと言う側面があります。また、コンクリートに圧縮力を導入するという概念のPSの用い方は設計者の工夫次第で自由度が高く、対震計画という意味でも、壁っぽい面的なものから、ラーメン構造と言われる柱梁の枠組み的なものまで、変幻自在に採用が可能で、いずれにしてもRCに見慣れた建築業界の人からすると、ちょっと感覚がズレるというかいい意味で期待を裏切れる構法でもあると思っています。今回のESCALIER麹町の構造計画/設計のアイデアは、①コアフレームの高塔状比を抑え込むアウトリガー的な片持ちテーパリング梁による応力の可視化。②それを支持するSteel柱によるハイブリッドから得られる隣地への開放感。③パラレル配置のアウトリガー梁とコアフレームの挟み込み。それを抑え込むプレストレスの利用。④建築的な外観のズレ部分に構造を配置せずズレを実現するRCの用法。⑤小規模ながら並列連続フレームによる事務所空間。などが挙げられますが、AIGが社を構える3Fの内装についても想いがあります。 構造設計というのは、大きく言うと3つくらいの素材(Steel、コンクリート、木質材料)と正面から向き合うため、基本はモノクロ、いってもセピアくらいだと思っています。それは技術というのが、無味乾燥というか再現性のあるモノだからだと思っています。その技術をどう用いるか。ということが重要なのですが、どう用いるかと技術は本来切り離されたものであると思っています。それは近代以降が専門分科された社会で、分化されたからこそ成し遂げられた事が多いのは事実ですが、それによって感じる閉塞感、疎外感があることもまた事実だと思います。その理由を挙げるとページが多く必要なので、またの機会に譲るとして、AIGではそこから視野を少し広げて、どう用いるか。を技術と一緒に試行、思考することをミッションとしています。もちろん、それをどう用いるか。というのは、協働するクライアントや建築家から気付かされる事の方が多い訳ですが、今までの20年の構造設計の人生の中で感じているおもしろポイントを具現化するために、内装をAIGの建築家の佐藤友則と共に計画しました。まず、安藤が大切にしたいと考えたのが、作るヒトの顔が見えること。素材が本来持っている素材感を表出する。の2点でした。そのため、まぁまぁな量を誇るAIGの蔵書を活かした本棚として、安藤が好きなワードで今回のESCALIER麹町のアウトリガーテーパリング梁と同様にパラレル配置の柱で挟み込んだカチマケを付けないSteel角鋼のフレームをクロカワというSteelの製造過程で塗布される一種の錆止めの渋さとSteel本来の素材色であるシルバーを対比されるような架構としました。日々仕事をするデスクのテーブルは、木質材料と言っても色々とある工法の中から代表的な集成材、LVL、CLTの3種類で天板を作り、集成材は高知産のスギを並列2次接着した版として、本山町のコングロマリット経営者の藤川さんに作ってもらい、LVL版は安藤が技術顧問をさせて頂いているファーストウッドの兼井さんに青森県産スギで作ってもらい、普通にLVLの素地だと見た目が合板と変わりがないため、ファーストウッドいち推しのLVL小口をタイル状に敷き詰めた市松柄としました。また、CLT版は岡山県産のスギ材として、これは銘建工業の田中さんに作ってもらいました。木質材料と言っても色々な作られ方がありますが、それらをサンプルで眺めるより、実際に使いながら感じられることは非常におもしろい点だと思っています。それらを支持する脚もSteelのフラットバーをメタルブラスト処理状態でとどめて、Steelの素材感の違いを感じられるように工夫をしています。 色々と好き勝手に構築していますが、内装工事のクライアントをやってみて感じたのが、やっぱりモノを作るのはおもしろいけれど、こだわりとコストは両輪なのだな。というものでした。当たり前といえば当たり前なのですが、自分でお金を出すとなると、そこのシビアさをより痛感しました。僕たちは毎回クライアントに自分達がその時に考えうるベストを提案しますが、そのベストがひとりよがりに成らずに、もっとクライアント、建築家などの協働する人たちと対話を重ねながら、ベストではなくてもベターであってもストーリーを楽しめる姿勢が最も重要だな。と改めて感じました。 渋谷区千駄ヶ谷で起業し、代官山で時間を紡ぎ、この千代田区麹町のESCALIERと3つの空間で活動して来ていますが、居を移転する度におもしろいと感じる幅が増えているとも感じています。それは価値観を同じくする仲間も増えて、自分達の興味や活動の幅が増えているからであると思いますが、それを受け止める空間自体がその想いに負けていないからだ。とも感じています。そんな空間をこれからもたくさん作って行きたいと思うと同時に、ANDO Imagineering Group/AIGがさらに多様化していくことが楽しみだな。と改めて、この建物について考える時に感じました(安藤 耕作)