MTAhouse
- Year
- 2021
- Place
- 東京都港区
- Texture
- RC
HERE WE INTRODUCE THE PROJECTS WE HAVE DONE.
ALL PROJECTS ARE MADE OF IDEAS AND THOUGHTS THAT
EMBODY OUR PHILOSOPHY “IMAGINEERING”.
本計画は、AIGが代官山時代にオフィス空間をシェアしていた、鉄道などのモビリティーから建築設計まで幅広く行う株式会社イチバンセンの川西康之さんと協働した建物です。 計画地は富士山の麓にある小山町で、障がい者支援施設の移転に伴う建築工事です。 50名の入所者が活動的に生活するために本館、多目的棟、作業棟、訓練棟の全4棟が有機的に絡み合う建物です。 RC折版屋根の大空間である本館食堂棟を中心に、入所者のプライバシーを確保する個室と小さなパブリック空間を組み合わせたボリュームが両側に散りばめられ、中央の廊下の先に入所者が集まって活動する空間である多目的棟を配した、入所者が場所に応じてさまざまな距離感で人と関わり合える建物です。 この施設の入所者は20代から80代までと幅広く、あらゆるな世代や個性を包絡し多様なシーンに合う、東京ではできない小山町ならではののびのびした空間を模索しました。 施主である社会福祉法人婦人の園の高橋頼太理事長は、あらゆる立場のニーズの汲み取りについて、50回以上にも及ぶフューチャーセッション(利用者との対話)を行い、自立できる未来志向の福祉事業のあり方を川西さんやAIGと追求し続けてきました。 そのパッションを現場に反映するため、イチバンセンの担当者の加藤さんは、着工から竣工までの1年以上、住み込みで監理していました。 施工は、AIGとPC造の「神楽坂S-One」、鉄骨造の「AX鹿島プロジェクト」で協働し、信頼関係のある東京の株式会社谷沢建設ですが、いずれも作業所長は江口さんで、今回もクライアント、設計者全員の熱量を余すことなく現場に浸透させ、最後まで妥協することなく完成させました。 この建物の構造計画/設計は、 ①人の集まる空間と人の住む空間の全長80mをWRC造で一体で造ること ②コストパフォーマンスと地元建設業界への貢献のため本館の居住部分の屋根を極力木質構造とすること ③人の集まる建物の中心である食堂は建物を特徴づける構造とすること ④人の活動する部分はローコストに徹すること にフォーカスして計画を行いました。
①建築物は、地震時の位相差、熱応力による伸縮のため、通常60m程度毎に建物を縁切る必要がありま す。 本建物は平屋でWRCであることから、十分にせん断力を負担できる耐力壁が存在し、RCと木質構造の屋根がまとまって分散配置されているため、位相差が多少あっても各ボリューム毎にWRCとして成立するとして、一体の計画としました。 ②人の住む空間は、親しみのある木質構造を極力採用しました。 コストパフォーマンスがよく、地元の建設業界にも貢献できることが主な理由として挙げられます。 そのため、屋根の面内剛性を補うなどの配慮が必要になりますが、個室のボリュームを繋ぐ小さなパブリック空間の屋根などを局所的にRC造とし、木質構造屋根を最大限配置するハイブリッドな計画としました。 ③人の集まる本館食堂棟の屋根は、曲げ剛性のある一昔前のキャンデラがやっていたような折版屋根とし ました。曲げ剛性を持たせすぎると軽快さがなくなってしまうので、多少のスラストを許容する折版アーチとしました。 折版屋根は、各頂点のジオメトリをシンプルに設定し、面内力が支配的となるので150mmの厚さで計画しました。 折版構造という少し面倒ですが力学的パフォーマンスの高い架構は、最近では実現する機会が少なく、現場の鉄筋施工者がやりがいを感じて面倒をいとわず作っている姿には感銘を受けました。 また、WRC造の場合、階高は原則H=3.5m以下という制限がありますが、折版最下部をH=3.5mまで下げ、建物の「一部」である折版屋根がこれを超えている、という法的な解釈によりこの屋根が実現しています。 ④作業棟や訓練棟は、全体のコストパフォーマンスを考慮して、木造軸組構法を採用して、構造的にシンプ ルな計画としています。 多目的棟は、RCとして、存在する壁内に柱梁を同厚内蔵した耐力壁付きラーメン構造として、柱梁による凸凹の少ない型枠工事フレンドリーな構造として、高いコストパフォーマンスを実現しています。 屋根のジョイストスラブは、中央部分の応力が最大となるため、アンボンドPC鋼より線のライズを大きく取り、逆向きの応力を与えて長期のたわみを抑制しています。 本計画には、多様な目的、用途の建物が散りばめられており、構造計画/設計においても適材適所、様々な材料や手法を用いてハイブリッドな計画とすることで、構造的なパフォーマンスだけでなく全体のコストにも寄与することができたと感じています。 その分、綿密な施工計画/管理が必要となり、全体を通して谷沢建設江口さんが現場をしっかりリードして手腕を発揮して、クライアント、意匠、構造、施工がチームとなって想いのつまった建物に仕上げることができました(村松 美幸)